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R.KASAMA

飛鳥特装株式会社 製造3課 係長、架装3班 班長/
笠間 良太[かさま・りょうた]
  • Profile
    旧車バイクを再生整備し、乗り回す根っからのメカ好き。
    2000年、会社見学で居並ぶ特装車を目の当たりにして即座に入社を決めた。

世界中でここだけにしかないクルマを創るという得難い仕事

 クルマやバイクは好きでしたが、友達はみんなスポーツカーに乗りたがるのに、自分はセダンのあのエレガントな佇まいが好きで、若い頃はキャデラックに乗っていました。もともと少し偏屈なのかもしれませんね。
 この会社ではじめて特装車なるものを見たときも「世界にここだけしかないクルマがある」と興奮したのを覚えています。そんなクルマを自分の手で作るようになるなんて、こんな若造が言うのもおかしいですが、感慨深いものがあります。
 いままでにたくさんの消防車をはじめ、水難救助車や地震体験車などを作りました。自分はボディを作るグループなんですが、シャーシや塗装のグループのスタッフたちと細かいところまで、よく相談しながら進めています。設計の人も「ここの部分どうしようかと思ってるんだけど」なんて、よく相談に来ます。とても風通しのいい会社なんです。自分は班長だけど、困ったときは現場叩き上げの課長がいつでも相談に乗ってくれます。こんなにいい会社なのに、21歳の時に、あろうことか一度辞めちゃったことがあるんです。

奇跡的に戻ることのできた職場で自分は生まれ変わった。

 以前の工場は工業団地の中にあって、一日何100台というトラックが行き来していました。これを見てるうちにどうしてもトラックに乗りたくなってしまったんです。最初は小さな運送店に入ってお金貯めながら、大型免許とって、最終的には、海コントレーラに乗って一本立ちするまでになりました。でもそこまでやったら、急に空しさを感じるようになりました。そこから先の未来が全然見えなくなってしまったんです。
 ちょうどそんな時に、辞めてから一度も連絡をとることもなかった先輩から電話が掛かってきました。そして、そのときの自分の状況を伝えると先輩はこう言ったのです。
 「戻ってこいよ」。
 この一言で、自分の若気の至りの「放蕩」は3年で終わりました。再び現場に戻った自分は、無駄にした3年間を取り戻すかのように、がむしゃらに働きました。先輩を捕まえては自分がまだ習得していない技術を教えてもらい、早く一人前になろうと必死でした。
 でもあの3年、決して全部無駄ではなかったんです。長時間トラックに乗っていたから、運転する人の立場で車両のあり方を考えられるようになりました。自分はこれを最大限に活かして行こうと思っています。

大先輩から鈑金の職人芸を伝授していただく

 この時期に覚えた技術の中で、鈑金にはもっとも苦労しました。バス型消防車と言って、キャビンとボディがつながった車両があるのですが、屋根の部分は特殊な造形を創り出すことが要求されます。でも弊社で製作する車両は1台限りのカスタマイズですから金型成形をする訳には行かず、複雑な曲線をすべて板金で叩き出すことになります。まさに職人芸といえる高度な技術ですが、自分は先輩の教えを乞いながら、自らの手でやってみようと思いました。最初は先輩がやっていることを見ても、何をしているのかさえ分からず、先輩もどう説明していいのか苦慮しているようでした。そもそも言葉で伝えられるような世界ではないんです。勘と経験、頼りになるのはそれだけです。だから、自分はとにかく見よう見まねで鉄板を叩きつづけるしかありませんでした。いったい何10枚の鉄板を無駄にしたことか。
 最初の車両は先輩のお力を借りながら、数週間かかってようやく満足していただけるレベルに仕上げることができました。この仕事は定期的にある訳ではないので、技術を磨く為に余った鉄板をいろんなところから分けてもらい、ひまさえあれば叩き続け、鉄板の性質を覚え、勘を磨きつづけました。その甲斐あって、いまでは昔惚れ込んだキャデラックのあの流麗な曲線には及びませんが、自分でも満足できるレベルに近づきつつあります。板金についてはまだまだ修行中の身でおこがましいようですが、ゆくゆくは先輩から伝授されたこの技術を、今後は後輩に受け継いでいかなければと考えています。

この仕事をするのに必要なこと

 この仕事をするのには別に工業高校を出ていなくても大丈夫です。話すのが下手だって構わないし、理科系が得意である必要もありません。ただ好奇心旺盛で、前向きであることは自分としては必須条件ですね。前向きである限り、この会社の人は誰もが若い人の成長を暖かく見守ってくれるはずです。自分が言うとまるで自分自身を正当化してるみたいに思われそうですが、失敗を怖がってはいけません。とにかくやってみようというチャレンジ精神があれば、必ず成長できる環境です。
 繁忙期は忙しいけど、どこの班も残業を極力少なくできるように、全員で考えながら仕事をしています。自分はそろそろ身を固めるつもりですが、嫁さんや子供に寂しい思いをさせることは、おそらくないだろうと思います。