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K.OKUYAMA
飛鳥特装株式会社
製造部(兼)生産企画部 次長/
奥山 健太/[おくやま・けんた]
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この仕事を支える「人」を育てるために必要な「利益」
Person
現場叩き上げの私が、
柄にもなくエクセルの表計算で
描き出した会社の未来。
Profile
1977年生まれ。1996年 鶴見工業高等学校卒業。
飛鳥特装の前身企業に入社。以来一貫してシャシ改造を中心に特装車製作に携わる。これまでに自衛隊待機車や原発内の災害対策車など多様な「はたらくクルマ」を製作。2013年、製造部課長を経て、2022年、同部兼生産企画部次長。
若くして特装車制作の醍醐味を知ってしまった。
家業が自動車整備工場だったので、工業高校を卒業してからは整備士の修行をするつもりで、当時は整備業務も行っていた飛鳥特装の前身の会社に入ったんです。でも回されたのは車体架装の部署。シャシを改造して、燃料タンクやバッテリーを移動して、それに合わせてエアや油圧の配管の取り回しを変更する──家でいえば土台を作る仕事ですね。こっちの方が整備の仕事より面白くて、家業を手伝う気は無くなりました。
その後自分はキャビン改造の仕事も手伝うようになりました。初めて任されたのは消防車の座席をボンベを背負って乗るときに、背もたれが下がるようにするという仕事。スライドレールと、スプリングを使って何度か試作を繰り返し、上司に見せると多少の手直しを加えただけでOKとなりました。その後もシャシを作りながら手が空いたら「上物」も手伝うといった感じで、幅広い知識・経験を積みました。
いろんなクルマを作りましたね。忘れられない大仕事としては、自衛隊の「待機1号」といって、ベッドが24床もあるでっかいキャンピングカーみたいなクルマ。それから原発の「災害対策車」は、これまでで一番面白かったですね。タイヤの代わりにクローラ(ゴム製のキャタピラ)がついていて、横幅が3メートル85センチもあるんですよ。公道走れないし、そのままじゃトレーラにも乗らないから、一旦バラバラにして運搬して現地でもう一回組み立てて納品しました。
この仕事を支える「人」を育てるために必要な「利益」。
飛鳥車両特装グループに入ってから、程なくして私は管理職に昇進しました。まだまだ現場で働きたかったんですけど、ちょっと気に掛かっていた問題があったんで、このチャンスにそいつを解明してやろうと思いました。
「気に掛かっていた問題」とは、私たちがクルマ1台作って生み出す利益──いわゆる「生産性」が私としては十分とは思えず、その原因が何か把握できていないということでした。なぜ利益にこだわるかといえば、この仕事を支えているのは全て人。人を大切に育てないと、先行き事業は先細りになります。人を育てる期間というのは、企業にとって「投資」ですから、原資となるお金が必要です。その原資を稼ぎ出すのは「利益」をおいて他にはないのです。
利益=売上-原価なので、私は過去数年間の案件の原価を改めて徹底的に積算してみました。原価には材料費、労務費などの項目がありますが、当社の場合原価のうち6割は人件費が占めていました。となれば原価を抑えるには、人件費を削るしかないわけですが、減俸や人員削減という方向で解決しようとしたら、最悪です。人が育つどころか、社員の心はどんどん会社から離れ、本末転倒の結果になります。
人件費を下げずに利益を増やすふたつの方法。
ではどうすればいいのでしょうか。ひとつは同じ仕事を質を落とさずにできるだけ短い時間でこなすということしかありません。私は同業、異業を問わず、さまざまな事例を調査した結果、作業者自身が「この仕事は何時間で完成させると利益がどれだけ確保できる」と意識して働くかどうかで、かなり変わって来るかもしれない、と思いました。そして利益を増やすもうひとつの方法として、売上金額を上げるという方法もあります。特装車の仕事は見積価格の入札で受注が決まるケースが多く、他社より安い見積りを出して仕事を取ろうとします。でも中には、入札に勝ったはいいけれど、十分な利益が確保できないというケースがないわけではありませんでした。
私は過去の案件を洗い直して、そうした利の薄い案件をもし受注しなかった場合に、年間の業績がどのように変化するかシミュレーションしてみました。当然のことながら、全体の売上は減ります。でも利益は大きくは減りませんでした。売上が減った分の仕事はやらなかったわけですから、そこに投入された労働力はゼロ。ということはより少ない労働力で、大差のない利益が稼げる=生産性が上がる、という答えに達したのです。私はこの結果を携えて、自分の考える“あるべき姿”を当時の社長にプレゼンテーションしたのでした。
生産性が上がると未来に向けて、いい循環が回り出す。
言葉を尽くして語った甲斐があって、社長も理解してくれました。そして会社は変わりました。会社全体が「売上至上主義ではなく生産性の向上」という同じ方向を向いて動き出したのです。
従来の工程管理に生産性向上の視点を加え、現場ではより具体的な目標を持って効率化を追求するようになりました。また営業では利益率を落とさずに、入札で勝つためのさまざまな取り組みも始まりました。そして、1年で結果は出ました。現場での作業時間は増やさずに、会社全体の利益向上が実現したのです。
今後さらに利益率を高めるためには、入札での価格競争がない自社ブランド製品をもっと増やす必要があると思っています。現在うちの会社には地震体験車、除雪車のボスプラウ、多目的車のHAKOがありますが、未知の機能や便利を実現する「はたらくクルマ」をうちの会社から生み出したいと思っている社員は大勢います。今までは時間的余裕がありませんでしたが、生産性が向上しつつあるいま、ぜひ彼らの力を集めて、様々なアイデアを熟成させていきたいと思っています。
「生産性向上」を管理する仕組みについては一応カタチになって来ました。できれば少しずつ誰かに引き継いで、私は再び現場に戻りたいと思っているんです。自分が過去に得た知識・経験、そして「はたらくクルマ」が持つ可能性を、若い人たちに語り継ぐという大仕事を、やり残したままなので。
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